播州調味料株式会社様

新業務システム「播調ダイちゃん見える化君」を導入 工数低減と出荷単位レベルでの営業損益の見える化を実現
月刊食品工場長 2019年2月号より転載

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総合アミノ酸抽出メーカーである播州調味料㈱は2018年4月、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine」を導入し、工数低減と出荷単位レベルでの営業損益の見える化を実現した。「播調ダイちゃん見える化君」と名付けられたこの新システムは、これまでの業務をどう変えていくのだろうか。

さらなるうま味を求めて

播州調味料は1966年の創業以来、トウモロコシ、大豆、小麦などの天然原料からアミノ酸を抽出生産し、それらを活用した各種調味料を加工メーカーや飲食店などに提供し続けている。

同社の一貫したテーマは「さらなるうま味」の追求だ。

精製度が高く、さまざまな加工食品との相性が良い「ダイヤアミノ酸液」、アミノ酸液をベースに脱塩・濃縮・噴霧乾燥の工程を経て、うま味成分を凝縮した「粉末アミノ酸プロエキス」、厳選された煮干しやチキンなどから抽出したエキスを各種調味料とブレンドし、独自の方法で固形化した「ダイヤモンドエキス」など、「ダイヤ印製品」のブランドとして広くユーザーに支持されている。また、近年はバイオや酵素分解によって高分子ペプチドを抽出した高付加価値製品などの出荷も好調で、売上全体の10%を超えるようになってきている。

「弊社は豊田通商㈱を親会社に持ち、私が同社出身である背景もあって、トヨタ生産方式(TPS)の手法を取り入れた改善活動に積極的に取り組んでいます」と話すのは中川善弘社長。

食品安全については2012年にISO22000認証を取得。さらに現在はFSSC22000の認証取得に向けて準備を進めている。また、職場環境改善、労働安全活動にも積極的で、16年には「ひょうご仕事と生活の調和推進企業」認定を受け、また17年には中央労働災害防止協会より「無災害記録証(進歩賞、900営業日無災害)」を授与された。

「何が問題か」を知りたい

同社で20年以上前から使い続けてきた業務システムにおける最大の課題は、「受注」「在庫管理」「原価管理」「販売管理」の各業務システムがそれぞれ独立して存在しており、共通コードがなく、全く連携が取られていなかった点であった。そのため、担当部門ごとに同一情報をそれぞれ手入力する必要があった。当然、工数が増え、リードタイムも延びた。

また、蓄積した実績データが任意の単位ごとに整理されていないため、合算でしか把握できないことも大きな悩みだった。

採算管理についても課題があった。例えば粉末アミノ酸プロエキスは、製品ごとの1カ月分の合計売り上げや限界利益合計までは明らかになっていた。しかし、実際には歩留まりの違いからロットごとの原価は異なり、また出荷先別で売値や配送運賃なども異なっている。この状況では本当の意味での原価把握はできない。特に配送運賃のコストは売り上げの7.5%と、大きな比率を占める。売値、配送運賃によっては同一製品であってもA社出荷分は黒字、B社出荷分は赤字、というケースもある。こうした実情が見えなかったというわけである。

総務経理部の寺本直弘副部長は「ロットごと、出荷先別でどんな収支の問題があるのかが正確に把握できなければ、本当の意味での利益改善は図れません。私たちにとって本当に必要だったのは、『採算管理上で何が問題か』を具体的に知ることでした」と強調する。

ローゼックとの出会い

課題解決を図るべく、13年からもう一つの親会社である三和澱粉工業グループよりコンサルタント紹介を受け「原価見える化活動」を開始。これが新システム導入に向けた土台となったのだが、ローゼックの早川雅人社長との出会いは、その3年後のことだった。

「ちょうど、『原価見える化活動』を次のステップに進め、システム統合も図りたいと思っていたころでした。あるコンサルティング会社の勉強会で早川社長に話を伺い、専業として中小食品メーカー向けのシステムを開発・販売しているとのことで、強い関心を持ちました」(中川社長)

その後、業務分析やシステム要件の取りまとめ、数社での相見積もりなどを経て最終的に選ばれたのが、ローゼックの「クラフトライン」だった。

「コストパフォーマンスが高い上、どんなことにもユーザー目線になって分かりやすく丁寧にフォローしていただいたことに非常に好感が持てました」(寺本副部長)

営業損益をバブル図で比較できる

クラフトラインは生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティ、原価計算などの各種機能が組み込まれた食品製造業向けの生産販売統合システム。事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されているため、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。

播州調味料を含め、ユーザーから特に好評を得ているのが業務の見える化を促す機能で、例えば製造原価と標準原価との乖離、製造・原材料入荷の遅延、停滞在庫などをリアルタイムで警告してくれるのも大きな特徴(写真3)だ。

「データをエクセルに落とし込め、任意の表示形式に加工できる点もありがたいですね。弊社では営業損益をバブル図(写真4)に加工して比較しています。例えば、どのような項目でコスト負担が大きくなっているかが明確に比較できるようになりました」(同)


何度も関係部門へ聞き込み

新システムは17年4月から旧システムと並行して稼働することが決まった。だが、同社ではこの段階になって肝心なことが抜けている事実に気付いた。それは主に次のようなことだ。

  1. マスターデータ整備ができていなかった。
  2. 新システム構築プロジェクトチームとして必要な人員を確保できていなかった。
  3. 事務部門と生産部門との間で意識統一が図れておらず、システム修正・調整に当たり、的確な問題把握と指示ができなかった。

「これらは経験から学ぶことかもしれませんが、スタートラインでの認識があまりに甘かったと反省しました。システム構築は覚悟を決め、本気で取り組んでいかなくてはなりません」(同)

そこで当初のスケジュールを大きく変更し、専任スタッフを含めた8人のプロジェクトチームを結成、各現場と緊密に連絡を取り合い、それぞれの問題点と向き合いながら、丁寧にシステムの構築を進めていった。専任スタッフの一人としてマスターデータなどの整備に携わった研究部開発課の久保田弓美主任は振り返る。

「直しては新たに別の問題が表れ、また直す。ひたすらその繰り返しでした。完璧なマスターデータを作るためには、問題点を確実に一つ一つつぶしていくしかありません。ですので、何度も関係部門への聞き込みをしながら作業を進めていきました。こうしたやりとりの中で、各部門から改善に向けたより具体的な声も聞かれるようになりました」

地道な作業の下、システム構築作業は約1年に及んだ。そして18年4月、ようやく新システムへの切り替えが完了した。

中川社長は苦労して完成させたこの新システムに「播調ダイちゃん見える化君」という愛称を付け、魂を込めた。

「本当に知りたいこと」が見えるようになる

統合システムになったことで、何が変わったのか。播州調味料で実際に組まれた新システムと旧システムのフローを比較してみる(図)。先述のように、旧システムでは各業務システムが個別に存在しており、このため同じ内容の情報を何度も手入力(=二重登録)しなければならなかった。一方、導入した統合システムでは、情報が一つのシステムで共有される状態になるため、ある情報について一度手入力すれば、フロー全体にその内容が反映されるようになった。

また、バーコードを用いたトレーサビリティ機能も追加され、製品の現在の状況をロットごとに正確に追尾することが可能になった。

システムを構築するための労は要したが、それが完了すれば、その後は全体の業務が一気に効率化され、そして管理上の「本当に知りたいこと」が見えるようになる。


具体的な対策につなげられる

播州調味料によると、新システムの導入によって実際、主に次のような改善が図られたという。

  1. 二重登録をなくしたことにより入力業務の工数が低減した。
  2. 全生産部門を単一のシステムで管理することで、各種データを生産実績資料として活用できるようになった。
  3. 出荷単位レベルで営業損益が「見える化」され、各対策の判断材料を早期かつ明確に提供できるようになった。

入力業務の工数については、受注データの二重登録が解消された資材受渡部で1人/約半日分(日次ベース)が低減された。また、生産実績登録も、従来は各現場が登録用データを作成し、それに基づき総務経理部がシステムへ登録するという二重の作業であったが、現在は必要な実績データを各生産現場からダイレクトに登録できるため、この二度手間が解消された。

そして、営業損益については、先述のバブル図などを通じて、どこに問題があるかまで「見える化」できるようになった。

「新システムでは、ロットごとまで落とし込んでコストが分かるようになり、配送運賃もひも付けできるようにしました。これらにより『配送の見直しをしなければならない』『加工賃の値上げをお願いしなければならない』などの具体的な対策につなげられるようになりました」(寺本副部長)

幅広い製品顧客層の獲得に向けて

現在、同社では製造現場での日票は手書きで記入しているが、今後は新システムと連動させ、タブレット端末による入力への変更を目指す。これにより、製造現場での完全ペーパーレス化が実現する。

そして引き続き、よりもうかる工場づくりを目指して、正確なコストの算出を追求していく構えだ。

「弊社製造コストの中で特に大きいのは、エネルギーコストです。電力と天然ガスで売り上げの約10%を占めています。この実態をより細かく分析し、具体的な改善アクションにつなげていきたいと考えています」(同)

今年はアミノ酸液の新工場建設に着手する同社。狙いは増産だけではない。その先に見据える未来がある。

「総合アミノ酸メーカーとして、調味料原料から健康食品素材、化粧品原料まで、幅広い製品顧客層の獲得を可能にする事業展開を目指します」(中川社長)

ローゼック 早川雅人のコメント
業務システムの構築は業務を見直すこと、人を知ること

業務システムの構築プロジェクトは、どの会社でもご苦労されています。最も難しいのは、やはり社内の意識統一ですね。業務システムを組むということは、単にハードを整備するだけでなく、これまでの業務を再度見直すことであり、そして各現場に携わっている人を知ることだと思うのです。播州調味料さまでは、そのことに気付かれてから、中川社長によるトップダウンの下で本当に努力をされていました。そして、取り組みに対して数値で総括されている点も、非常に参考になります。ここでもトヨタ生産方式(TPS)の考え方が浸透されていることを実感しました。

(ローゼック 早川雅人)
月刊食品工場長 2019年2月号より転載